PROJECT
STORIES
交流から始まる、大企業の価値創造
06. BASE Q
日本型オープンイノベーション。
その答えに、誰よりも近く。
PROJECT PROFILE
BASE Q
東京ミッドタウン日比谷の6階にある、イノベーションや新たなムーブメント創出の基点となる交流を目的としたコミュニティ。三井不動産が、様々な企業とコラボレーションのうえ運営。 大企業のイントレプレナー、ベンチャー企業、NPO、官公庁など、多様なバックグラウンドを持つ人々に、新たな価値創造や社会課題の解決につながる交流の機会を提供している。例えば、開放的なワークスペースや面積約500㎡のイベントスペースなど、感性を刺激し、人と人との交流を促進する理想的な環境を整備。また、BASE Q独自のプログラムとして、三井不動産・電通・EY Japanの協業による「BASE Qイノベーション・ビルディングプログラム」を実施。こちらでは、オープンイノベーションに特化した専門家として、大手企業のイントレプレナーの抱えるイノベーション創出や新規事業の課題解決に徹底して「伴走」している。これらにより、大手企業のイノベーション成果を最大化し、さらにベンチャー企業の成長を促進しながら、日本経済の活性化に貢献している。
また、BASE Q自体もオープンイノベーションによって実現。BASE Qは三井不動産と電通、EY Japanによる共同事業であり、BASE Qを企画、運営する中で三井不動産だけでは足りない要素を電通、EY Japanに補ってもらっている。会場の運営管理において、三井不動産ビルマネジメントが業務を担当。
※掲載されている部署名はプロジェクト担当時のものです。
光村圭一郎
三井不動産
ベンチャー共創事業部 事業グループ
片山智弘
電通
吉田圭樹
EY Japan
山川雅人
三井不動産ビルマネジメント
電通とは
「Integrated Communication Design」を事業領域としたコミュニケーション関連の統合的ソリューションの提供、 経営・事業コンサルティングなどを手掛ける広告会社。世界第3位の広告市場である日本で長年にわたりNo.1のシェアを持つ。
EY Japanとは
アシュアランス、コンサルティング、税務など、豊富な業務経験を有するプロフェッショナル・チームが連携し、企業が抱える課題に対し最先端かつグローバルな視点から最適なサービスを提供するコンサルティングファーム。
三井不動産ビルマネジメントとは
三井不動産グループにおけるオフィスビル運営管理事業の担い手として設立。以来、事業領域をひろげ、プロパティ・ビルマネジメントにとどまらずオフィスに関連する事業を通じ、さまざまな付加価値を提供。
街づくりから、産業づくりへ。
―BASE Qの発端を教えてください。
光村|三井不動産ここ(東京ミッドタウン日比谷)の開業は2018年ですが、それに先立つ2016年の春ぐらいから、中に何をつくるかの検討が本格化していたんです。もともと6階は、商業施設でもオフィスでもない、産業やビジネスを生み出すための場所にすることが都市計画上でも定められていました。でも、三井不動産の基幹事業は「街づくり」で、「産業づくり」は手掛けたことがない。そんな背景があり、当時の東京ミッドタウン日比谷の開発担当チームから知見を貸してくれないかということで、新規事業を専門領域とするベンチャー共創事業部の私に声がかかりました。
―既存事業とは違う、新しいものを生み出したいという思惑があったのでしょうか。
光村|三井不動産少なくとも個人的には、ただ場所を貸し出すことには興味がなかったですね。コロナの文脈により「場の価値」が改めて問われる状況が生まれていますが、それにかかわらず、ただ場所が用意されるだけではイノベーションは生まれないというのが私たちの考え方です。とはいえ、リアルな場所がまったくの無価値であるなんてことはもちろんなく、リアルな場所にソフトウェアやコンテンツ、さらにはコミュニティという要素を組み合わせることが重要です。私は個人的には、三井不動産のライバルは他のデベロッパーではなくGoogleやFacebookだと思っていますが、デジタルに機軸を置く彼らに対して、デジタルとアナログを融合させてどう戦うかを、常に考えています。
おせち料理ではなく、鍋料理。
―電通、EY Japanとの協業についてですが、なぜ社外からもメンバーを集めたのですか。
光村|三井不動産それまで三井不動産で新規事業に関わってきて、当然失敗も経験しました。その理由は、自分の力だけでやろうとしたせいなんです。三井不動産から見えている世界なんて、実はとても狭いものなんです。そういった経験からオープンイノベーション※の重要性は身に染みていましたし、仲間をつくらないと前に進まないだろうと思っていました。まず、もともと三井不動産とも縁の深いEY Japanに声をかけ、その半年後くらいに電通ですね。
片山|電通話を聞いた瞬間から面白そうでしたね。もともと日比谷は文化交流の街で、その歴史からオープンイノベーションというアイデアに行き着いたのも面白いと思いました。それに三井不動産と電通は、事業こそ違うけれどカルチャーは似ているんですよね。世の中の大局を見て何かをつくっていく部分が共通している。共創していく上で親和性は高いんじゃないかと感じていました。まあ、光村さんが言っていることと、三井不動産の既存事業のイメージとのギャップがすごくて驚きもしましたけど(笑)。
吉田|EY JapanEY Japanは早い段階からプロジェクトの一員でしたが、僕自身がジョインしたのは開業後です。
片山|電通「BASE Qイノベーション・ビルディングプログラム」で開講している「Qスクール」の講師として来てもらったのが最初ですね。
吉田|EY Japanあの時は、こんな運営企画の立場になるとは思っていないですから、純粋に「三井不動産ってこんなことやってるの?」とびっくりしてました。「このスペース、オフィスとして貸してるんだよね。え? イノベーションのサポートやってるの?」って(笑)。
光村|三井不動産この3社の協業は、入口が「何か新しいことをやれるかもしれないから集まってみた」というゆるやかなチーム組成がキモなんです。これまでの企業同士の付き合い方って、受発注関係がまずあって、発注者がやりたいと決めていることを、受託者が契約に基づいてやらなきゃいけないよね、というのがほとんどです。でも、今回のプロジェクトはそれじゃうまくいかないだろうし、面白くないと思った。
※オープンイノベーション:企業が自社の生存戦略上、必要としながら持っていないものを、自力で手中にするよりも早く入手するために、社外と連携すること。
―チーム内の関係性は、完全にフラットなんですか。
光村|三井不動産最後の決断は私がしますが、そこまでの過程は本当にフラット。仮説に対して遠慮なく意見をぶつけ合い、一方で、お互いの得意分野へのリスペクトはしっかり持つ。受発注の関係が先にあるとこうはならないでしょうね。発注側が何か言ったらそれに決まってしまう。
吉田|EY Japanやることはこれから定めていくということも相まって、現時点では会社ごとの役割が分かれていないんですよね。
片山|電通広告会社でいうところの製作委員会※とも違う。このチーム自体がオープンイノベーションそのものなんですよね。
光村|三井不動産街づくりとも違いますね。たとえばビルなら、ゼネコンや設計会社といった関係各社がそれぞれの持ち場で100%力を発揮することが求められます。そういう仕事を「おせち料理型」とするなら、私たちはお互いの素材をしっかり活かしつつ、新しい「鍋料理」を作ろうとしている感じですよね。
※製作委員会:複数の会社が資金を出し合い、リスクを小さくしながら事業に参加する仕組みのこと
日本のベンチャーは、ベンチャーだけでは成長しない。
―BASE Qは、大企業とベンチャー企業の交流促進に力を入れているのが特徴的だと聞きましたが。
光村|三井不動産日本も、かつてに比べればベンチャーが元気になっていますし、ベンチャーを支援するプログラムは山ほどあるんですが、まだ大きな成功を収めるには至っていないという意見があります。GAFAと戦えるような企業はなかなか生まれていない。おそらく日本には、ベンチャーがベンチャーだけでは成長できない社会や経済のシステムがあるのではないか。そこを突破するための仮説として、大企業とベンチャーが本質的に手を組み、一緒に大きくなっていくことが日本流のイノベーションになるんじゃないかと考えたんですね。その支援をBASE Qでやる。特に、大企業の側へ働きかけていこうと。
片山|電通運営を行う私たち自身も大企業だし、私たちのクライアントも大企業。大企業には大企業なりの理屈があり、物事の進め方がある。変えなければいけないこともある。それを知っているからこそ、本質的な支援ができると考えています。
光村|三井不動産たとえばベンチャーなら、アイデアを100人や200人のベンチャーキャピタリスト※に見せて、誰か1人がうなずいてくれたらそれで動き出せるんですよ。だけど大企業では、そうはいかない。新規事業の決定権を持っている人に「No」と言われたら終わりという一発勝負の側面がある。だから、アイデアが優れているだけではダメで、事業方針の通し方のテクニックが必要になることもあるんです。その肌感覚をもって支援すれば、大企業で悩んでいるイントレプレナーを救えるかもしれないと。もちろん、そのような「面倒くささ」を乗り越えれば、大企業の豊かなリソースを活用しながら事業づくりができるというメリットもあります。
※ベンチャーキャピタリスト:投資先の発掘・評価並びに投資後の投資価値成長を実現するための指導育成等を行う専門家。
―現時点での手応えはいかがでしょうか。
光村|三井不動産かつて他のやり方で新規事業やオープンイノベーションにトライしてみて、うまくいかなかった人たちが振り向いてきてくれている感じです。ここ数年、大企業の新規事業やオープンイノベーションはバズワードになってしまった。「新規事業ごっこ」「バブル」なんて揶揄する声も聞きますが、その指摘は決して間違っていない。BASE Qは安易なバブルに乗るのではなく、本質を深く考えて実行するところに存在価値があると思っています。そして、2018年から今日まで、それをずっと続けてきたことで、真剣に考えている人たちにも伝わってきたのではないでしょうか。
片山|電通終わりがないですよね。オープンイノベーションを大企業にどう最適化するか、そのコアナレッジを磨き続けているけど、終わらない。
BASE Qの取り組みの一つとして、「イノベーション・ビルディングプログラム」を提供。オープンイノベーションに特化した専門家として、イノベーション創出や新規事業の課題解決に徹底して「伴走」している。
吉田|EY Japanそんなに簡単に終われたら、誰でも成功してますからね。
光村|三井不動産大企業を変えて、日本に新しい事業を生み出す。そんなやり方が2、3年で見つかったらこんなに楽な話はない(笑)。オープンイノベーションや新規事業には「成功の法則」がないんです。ある大企業で上手くいった方法も、他の大企業にそのまま持ち込んだら失敗することも多い。それぞれの企業の特性や課題を細かく見ながら、アジャストをひたすら続けていくしかない。お金も時間も必要な事業ですけど、だからこそ三井不動産をうまく利用したいなと思うんですよね。投資の体力があるし、「すぐに結果を出せ」なんて無茶も言わないし。
吉田|EY Japanそこは大事なポイントですね。EY Japanでもクライアントから新規事業について相談をされることが多いんですけど、「3年後に50億にして、5年後には100億で……」というイメージで語られることがあります。そんなスピードで成長するなんて、ベンチャー企業でも稀です。ゼロからアイデアを出す場合、何をやるかを決めるだけでも1年かかるなんてざらですから。
光村|三井不動産三井不動産はこういうプロジェクトを大局観を持ってやらせてくれる、貴重な存在なんですよ。もちろん業務においては大変なこともたくさんあって、誰もが一度や二度は会社を辞めようと思うことはあるんじゃないかと思いますが(笑)、私が残っているのはそういうところです。もちろん、この先もBASE Qを継続し、成長させるために、会社に対する提供価値を、ちゃんと生み出していかないといけないですけど。
コロナ禍という、時代の早送り。
―コロナ禍は、BASE Qにどのような影響を与えたのでしょう。
光村|三井不動産いろいろありますけど、特に山川さんが運営しているQ HALL(450人収容可能な多目的空間)は考え方を徹底的に変える必要に迫られましたね。
山川|三井不動産ビルマネジメント2019年はイベントでずっと埋まっていたんですけど、コロナによってそれが全部なくなりました。時間だけはできたので、つながりのある会社さんと次々にブレストをして、対応を練って。その中で、イベントのオンライン配信をちゃんとした場所から行いたいというニーズが掘り起こせたんです。それをヒントに、Q HALLを配信の場所としてレンタルするだけではなく、配信内容の設計まで手がけるパッケージをつくりました。
Q HALL:さまざまな分野における最先端の情報を発信するイベントスペース。キッチンスペースやスタジオも完備。新たな価値創造につながる未来志向のイベントを誘致・開催している。
光村|三井不動産それが軌道に乗ったんですよね。場所と配信をセットで提供しているところは他にほとんどなかったから。
山川|三井不動産ビルマネジメントやってみて面白かったですね。個人的には自分でサービスを立ち上げて、マネタイズするところまでやってみたかった。今回、それができたのかな、と。引き金になったのはコロナ禍ですが、社会のデジタル化が進めば遅かれ早かれ、こうした取り組みは必要になったんじゃないかと思いますし。
光村|三井不動産コロナ禍にはそういう側面もありますよね。時代が早送りされたみたいに、いつか来るべきものが先に来た。
片山|電通 Q HALLってもともと、単なるイベントホールとしてではなく、ちょっと変わった使われ方をすることが多かったですよね。ドローン飛ばすとか、VRを置いてボクサーと戦えるようにするだとか(笑)。普通のホールなら断られるんじゃないかという。
山川|三井不動産ビルマネジメント騒音とかトラブルとか考え始めると「難しい」となってしまうんですけど、それよりも「面白そう」「お客さんのために」を優先したい。難しいと思っていた課題も、大体がお金と工夫でなんとかなるんです。お金がなければ工夫を増やせばいい。
光村|三井不動産山川さんは、私がBASE Qを立ち上げるときに「ぜひに」とチームに招いたんですが、まさにこの面白がる姿勢がいいなと思っていたんですよ。いきなり100%の成功はないかもしれないけれど、じゃあ次はどうするか、どうよくしていくかというところに意識を向けられる人。これは山川さんに限らず、BASE Qというチームに共通する意識で、本当に力のあるプロが集まってくれています。絶対につまらない仕事はさせられないし、させてしまったら社会に対して申し訳ない。そう思います。
世の中を、もっとよく。
自分の人生を、もっと面白く。
―BASE Qは、これからどんな存在になっていくのでしょう。
片山|電通ランドマークにしたいですよね。オープンイノベーションというマーケットのあるべき姿を描くという、まだ日本で誰もできていないことを、最初にここで実現したい。
吉田|EY Japanそれを実現するには新しいプログラムが必要かもしれないし、そのためには私たち自身が学び続けていくことが欠かせません。どんなパーツが必要なのかはまだわかっていないですし、答えは常に変わっていくとも思います。つまり、いつまでも完成形はない。それを、違った知見や視点を持つ人とひとつのチームになって突き詰めていけるのが、私はすごく面白い。
山川|三井不動産ビルマネジメント本当に面白いし、ありがたいですよね。よく、「仕事を属人化してはいけない」といいますが、私はむしろ真逆を行っています。今はこの環境を活かして、自分にしかできないことを増やしていこうとしている。それが回り回って、会社に広く共有できる有益な情報になればいいなと思っています。
光村|三井不動産私は退屈がすごく苦手なんです。新しいことに挑戦する人が多い世の中ほど、私自身も退屈しないですむと思っています。ところが最近の新しいもの、面白いものって、ほとんどが海外から入ってきている。そういうものを目にすると「これ、日本でも、東京でも、自分でも生み出せたんじゃないかな」と思ってしまうんですよね。そういった、新しいことへの挑戦の仕組みや空気感をつくっていくことが、BASE Qのひとつの目的だと考えています。日本の大企業が変わって、ベンチャーが力をつけて、やがてこのBASE Qから新しい何かが生まれる。そして世の中がよくなっていく。こう表現するとすごく大きな話ですけど、私にとっては実は、「新しいことに挑戦をして、世の中がよくなっていく」ということは「自分の人生を面白くする」という、極めて個人的な欲求とも同義語。だから頑張れるし、そんな仕事の仕方があってもいいのではないかと思います。