働く人の心
Aya Hasegawa
本音をぶつけ合いながら、
「三方良し」の未来をつくる。
長谷川 亜耶
商業施設・スポーツ・エンターテインメント本部
商業施設営業三部 営業グループ グループ長
前職:中央省庁
MY PROFILE
前職の経済産業省に13年間務めた後、2019年入社。ビルディング本部法人営業統括一部にて日本橋エリアのテナントを担当した後、2022年に商業施設・スポーツ・エンターテインメント本部商業施設営業三部 グループ長に異動。都心商業施設の飲食店誘致(リーシング)を担当している。
最高の施設のため、
信念を戦わせて前へ!
長谷川さんは今、商業施設の営業三部のグループ長なんですね。
はい。営業三部は飲食店と食物販を管轄しており、当社の持つ100施設近い商業施設全ての「食まわり」を担当しています。三部の中はさらに「郊外型」と「都心型」の2グループに分かれていて、私は「都心型」のほうの営業グループ長になります。東京ミッドタウンやCOREDO室町が「都心型」の施設になりますね。私のグループには4チームありますが、1チームが大体2〜3人なので、グループメンバーの人数は12人です。
非常にわかりやすい説明をありがとうございます。仕事内容としては、レストランなどのテナントの誘致になりますか?
はい、テナント誘致がメインになりますが、既存物件への誘致営業だけでなく新規に開発する施設にも企画段階から関わります。他部署の新築の設計メンバーと一緒に「どういうお客さまにご来館いただくための、どんな施設にするか」を考え、必要なテナント像やフードホールのような特殊なゾーン、高級店エリア、区画面積、動線、「ファサード」つまりテナントの店構えの向きなどを企画します。
かなり根本から細かいところまで企画に入っていくんですね。
物件が出来上がってしまうと変えられないことも多いので、大切な作業です。「こんな動線だったら全然お客さん入らないよ!」みたいなことを企画のうちにガンガン言って、もう喧嘩レベルの意見のぶつけ合いをしながら進めていきます。さっきも一つ熱戦を繰り広げてきたばかりで、今興奮冷めやらぬ感じです。
さっきも?
こんなリアルタイムなことを話していいものかわかりませんが(笑)、他部署とともに私のグループのメンバーが出してきた新規施設の企画が極めて斬新だったんです。「今までにないものをつくりたい!」という気持ちは十分にわかり、嬉しいのですが、本当にその企画にテナントさまが前向きになってくれるのか、開業後のニーズに合致して集客・リピートが見込めるか……考えの詰めをもっと深める必要があるように感じました。少なくとも今日の打ち合わせでは、「新しさ」の議論が強くなりすぎて、いつのまにかプロダクトアウト的思考にはまっている可能性があると感じて。いえ、もちろん私が間違っている可能性もあるんです。もしかしたら、ここまで斬新なことをすれば、「面白い!」と言ってたくさんお客さまが来てくださる未来も描けなくはない。けど、そこを信じ切れるほどの説得力が今日はまだ感じられず。「こういう理由で、テナントさまも、お客さまも、みんなが幸せになるんだ!」ということを精一杯作り込みたいですよね。
新しいものを頭ごなしに否定しているわけではないんですね。最終的にお客さまが入らなければ、せっかく誘致したテナントさまにも申し訳が立たないから、尖ったことをするならきちんと筋道を立てて説明する必要があるということですね。
その通りです。私は営業として、商業施設を企画、運営している当社、テナントさま、そこに来るお客さま、みんなが幸せになることを目指しています。実際はなかなかうまくいかず、どこかがプラスになるとどこかがマイナスになることもありますが、それでも少しでもみんなの納得感が得られるようにしたいと思っていて。この「三方良し」の精神があるからこそ、テナントさまに本当に自信を持ってご案内できるような企画じゃなければ首を縦に振れないのかもしれません。とはいえ、さっきは言いすぎたかも……反省。
全員が幸せになる道を探る。
「根っからの営業だな」と思いながらお話を聞いていたんですが、そもそも長谷川さん、前職は経済産業省ですよね。三井不動産に入るまでは営業経験がなかったかと思います。前職の話もお伺いしていいですか。
経済産業省に入った理由は、世界的な貧困問題や経済格差をなんとかしたかったからでした。経済的に困窮している国に対して、日本の力で役に立ちたい、それを慈善事業ではなく政府予算と民間投資の両方を活用して全員に利がある形で進めたいと思った時、最もレバレッジが効くのが経済産業省ではないかと思ったんです。大体2年周期で異動があるので前職の13年の間に色々な仕事をしましたが、どの仕事でも「経済的困窮の解消」という自分のテーマに沿ったチャレンジを少しずつ実行できたと思います。例えば、日本の消費者保護に関する政策立案の部署のころ、消費者が不当な取引や詐欺的な手口によって被害を受けないようにするための法令改正に携わっていたのですが、ふと「この法令や仕組みって、制度が整ってない国にも参考になるのではないか?」と。
制度の輸出というか、コンサル的に指導するようなイメージでしょうか。
そうですね。具体的には割賦販売、いわゆる分割払いに関する規制の管轄だったのですが、当時知ったのが、インドネシアでは日本のバイクが大人気だったんですよ。多くの方が日本のバイクが欲しいのだけれど、高価格だから分割払いでどんどん購入してしまい、結果支払いが滞って個人破産になったり、粗い資金回収で傷害事件にまで発展するという問題がありました。一方で日本には「この人に貸しても本当に大丈夫か」という時に、法令に基づく民間の個人信用情報管理システムがあるため、過剰な貸し付けは生じにくい。この仕組みをインドネシアにも導入したらどうだろうかと。導入することによって「借りたいのに借りられない」人は出てきますが、個人が経済的に破綻するよりはいいのではないか。そう考え、適正な販売金融システムをつくることにしました。
早速プロジェクトを立ち上げて、インドネシアの中央銀行の方と共同セミナーを行ったり、現地の銀行の方々にその仕組みの導入を働きかけたり。先ほど申し上げた通り役所は2年周期で異動なので、途中から後任にバトンタッチしましたが、その後、日本の個人信用情報機関が実際にアジアに進出することになったというニュースを見て、進展を喜びました。
すごい、実現まで行ったんですね。
本当は自分が見届けたかったですけどね(苦笑)。この頻繁すぎる異動がネックで、「何かをやり遂げるのに2年は短すぎる」と転職に至ったという経緯があります。
ちなみに最初に「慈善事業ではなく全員に利がある形」で進められるのが経産省の良さだとお話しされていました。インドネシアのプロジェクトにおいては、日本側のメリットは何になるのでしょうか?
日本にとっても国産バイクが海外で売り上げを伸ばすことはメリットになり、そのためには健全に相手国の市場が発展していかないといけません。現職でのテナント営業にも通じますが、「短期的に売りつけて終わり」ではなく、仕組みを整えた上で末永く市場を広げていく道を探る方が結果的にいいという考えがベースにあります。日本のバイクの輸出が広がり、相手国の方は経済破綻や傷害事件も起こさず、適切に返済しながらバイクを手に入れられる。ちなみに当時、インドネシアでは家族経営事業が多く、業務用車は買えないけど業務用バイクならば分割で買えるという方も多かったようです。そういう方々が販売金融を活用してバイクを購入でき、事業の輸送手段として使えば、家族の収入増にも繋がるだろう、ひいてはこの国の経済発展になるだろうと、そんなことを現地の有識者の方に言っていただきました。そこまで至れば、より真に「三方良し」ですよね。
設計を変えてでも、
誘致したいテナントがあった。
三井不動産での印象的だった仕事について教えてください。
とある新規物件の目玉となる区画に、どうしても出店してほしい素晴らしいレストランがあり、数年かけて出店交渉したことです。先方の社長は「“街の資産”となるレストランをつくる」という素晴らしい信念をお持ちの方。そこに感銘を受けた私の前任者がすでに営業をかけており、しかし断られたと聞いていました。が、「いや、断られてからが営業だ!」と、私の代でも社長に再アタックを試みました。
最初は当然、けんもほろろに断られました。「僕を口説けるような区画じゃないよ」と。確かに……確かにそうだったんです。ビルの1階のレストランであれば当然欲しいような条件が整いきっておらず、営業する私も内心「その通りなんだよなぁ……」と。ですので、社長にご提案するのと並行して社内への働きかけを行いました。あのレストランに出店したいと思ってもらえるよう、ビルの設計を変えてほしいと。
できるんですか?
普通はできません、もう区画の設計が決まっていたタイミングだったので。ただ、まだ建築は始まっていなかったため、変更できる範囲もわずかにありました。扉の開き方やデザインを一部変えるといった内容で、たったそれだけでもレストランのつくり方には大きな違いがあります。他方で、追加費用は驚くような大きな金額。社内で最初から首を縦に振る人はいませんでしたし、「変更したとして、追加費用はどうやって回収するのか?」という部分でも揉めに揉めました。
ただ、結果的には設計変更することになったんです。「変更してでもこの区画にあのレストランが入っていただくことが、物件全体の価値になり、さらにはこの街の価値にもなる」という話で時間をかけて社内を必死に説得し、徐々に味方を増やし、関係者の納得が得られたから。大急ぎで社長に会いに行き、「ここをこんな風に変えれば、人の動線はこう変わり、レストランの見え方はこう変わり、街への賑わいが広がり……」と提案しました。すると社長から「この設計変更ができるなら、確かにアイディアが湧いてくる。出店検討してもいいかもしれない」と!
もう、一気に報われた気分になりました。私だけじゃなく、社内で味方になってくれていた技術系社員も、大喜びでした。私たち、そのレストランの全国にある既存店に各々通い詰めていたんですよ。内装やサービスに垣間見える社長とこのレストランのスタッフの方々のこだわりをお客さまの立場で体感して、どうすればうちの物件にお店を出してもらえるか研究して。「食事しながらサッシの幅を測っている不審な客がいるぞ」と、たまたま店にいた社長から目撃されたことも。そうやって会うたびに、「また君たちか!」と呆れられ、笑われ。他にも必死にお店のことを勉強して、たくさん会いに行って。最後に設計変更によってぐっと流れが変わった。「わかったわかった、そこまで愛を持って向き合ってくれる人たちなら信じるよ」と。
なんとハートフルな。非常に思い出に残る成功体験ですね。
いえ実は……この話には続きがあります。そろそろご契約というタイミングで、物件側で一つ、どうしても乗り越えられない制約が出てきてしまったんです。その制約があることで、私が社長にご提案した際の、動線や、街への賑わいの広がりといった重要な要素の一つが叶わなくなるとわかりました。血の気が引きました。
目先の利益より、
『共栄』を選ぶ。
長谷川さんはそれで、どうしたんですか?
部門長を伴ってすぐに謝罪に向かいました。社長はその日、顔も見てくれませんでした。「騙された気分だよ、このプロジェクトはもう進められないかもしれない」と。家に帰ってボタボタと涙が出てきました。こんなことになってしまい、いったい誰が悪かったのかと探しても解決しない。いずれにせよ、信じてくださった相手先さまの信頼を完全に失ってしまいました。誰より思い入れを持って、数年かけてここまで進めてきたのに……とこの時は本当に心底悔しくて、つらかったです。泣くほど思い入れのある仕事に出会えたのは素晴らしいことですが。
後日談としましては、解決に向けて社内に掛け合った上で、方針変更のご相談をしまして、なんとか別のプランで進めていただけることになりました。確かに、最初のご提案通りにはならない。でも、改めて今の条件で動線などを検証した結果、また別の方法が見えてきたところもありまして、今はその案でプロジェクトの検討は進んでいます。先方社長は多くの制約の中で、社を挙げて素晴らしい変更プランを作成してくださり、改めて素晴らしい会社さまだなと心から感動しました。良いお店、施設、街づくりに全力を尽くして恩返しできるよう、私もますます頑張りたいという気持ちです。
良かった……。
本当に良かったです。この企業さまは本件以外でも今後またぜひお付き合いを続けたい大事なお客さまですし、当社として、今後もご縁をいただけることにとても安心しました。
「こういうことが起きてしまうんだな」と思いましたし、反省すべき点が多々あります。ただ一番大きい学びとして、今後はもっと初期の設計段階からどんどん営業の意見を言って、織り込んでいかないといけないというのを肝に銘じました。設計が済んでからの変更はやはり大変なんです。営業はテナントさまから率直な意見を受け取れる立場ですし、テナントさま側が蓄積してきた素晴らしい集客ノウハウにも触れる機会が多々あります。そうした中で学べるレストランの「勝ち筋」に繋がる設計や企画もあります。そうしたものを仔細に、かつ粘り強く社内共有し、企画・設計の段階から入れていくことで、最終的に当社・テナントさま・お客さま全員の幸せに繋がっていく。グループ長になり、携わる新築物件の数も増えましたが、それでも「あの目玉区画のサッシはどうなった」「共用部の使用については許認可を取れているのか」等々、細かいところまで口うるさく言ってしまいます。冒頭に話した他部署との侃々諤々も、そんな思いから発生しています。
そこまで想いを持って仕事をしている長谷川さんが、「全員を幸せにする」ための舞台に三井不動産を選んでいる理由を、最後に聞かせてもらえますか。
……実はうちの商業施設・スポーツ・エンターテインメント本部のキャッチコピー、「Growing Together」なんです。組織の考え方が、まさに「共栄」なんです。価値観が合っているというか、もはや私は三井不動産の商業施設営業の申し子かと(笑)。
改めて振り返っても、私たちは営業目標達成のためにテナントさまやお客さまを騙すようなことは絶対にしませんし、私自身、物件のメリットもデメリットも誠実にテナントさまにお伝えした上で出店をご判断いただこうと常に意識しています。「損して得取れ」とまでは言いませんが、一時的に当社の収入が下がったとしても、信頼されることを最優先に、長い目で見てみんなにプラスになる仕事をしようという空気を、経営層からも感じます。その空気があるから私は安心して働けているんだろうと思います。究極のところ、私は自分に出会った人が全員ちょっとでも幸せになってほしいんです。その心を失わずに働けるのが、三井不動産という会社なのだと思います。