働く人の心
Marie Tsunoda
現場に行き、声を聞く。
未来はそこから紡ぎ出される。
角田 まり絵
ビルディング本部 ワークスタイル推進部
前職:中央省庁
MY PROFILE
林野庁での5年勤務ののち、2023年に中途入社。法人営業統括一部に配属され、オフィステナントに対して働き方のコンサルティングを行う。組織改定によりワークスタイル推進部に異動。引き続き企業へのコンサルティング業務に従事し、オフィス空間の提案からコミュニティづくりの支援まで幅広く行っている。
「私は」「誰の」
「役に立ってる」?
角田さん、前職は林野庁なんですね。
はい、農林水産省の外局である林野庁です。新卒から約5年いて、国有林の管理業務はじめ、林業と森林に関連する業務に携わっていました。
林野庁からどう三井不動産につながるのか、非常に興味があります。まずは角田さんのバックグラウンドからお聞きしてもいいですか?
私、子どもの頃から無類の動物好きで、学生時代は野生動物の研究に没頭していたんです。学部時代は東京の都市部にいるタヌキについて、大学院時代はイギリスに半年ほど留学してアナグマについて調べていました。研究の視座は「保護」です。どうすれば野生動物を守っていけるか、人間とどう共生していけばいいか。動物たちの生態、つまり食べ物や行動範囲、時には捕獲調査などをしながら、ひたすら考えていました。
動物が生きていける「環境」に興味があったことから、就職活動の際には環境コンサルや民間の研究所などを見ていました。ただ、民間だとどうしても儲けを出すことから逃れられません。利益はもちろん大事です。が、そこに縛られずに、純粋に何かの解決に資することができたらと思ったのが、新卒で公務員を選んだ理由です。
公務員になってからは「国有林の管理をしていた」と先ほどおっしゃっていましたが、具体的にどんな仕事だったんですか?
まず、国有林は国が管理経営をしており、原生林を含む天然林では適切な保護を、人工林では林産物の生産と販売を行っています。当時の私は国有林を通じて森林の持つ公益的機能を高め、地域の人々の暮らしや産業の振興等に貢献する道を常に考えていました。実際1年間は宮崎県に赴任し、現地の林業従事者の方々と一緒に長靴と作業着で林に入っては「ここの日当たりが悪いから間伐しよう」とか「ここにシカが出たね」とか、自分の目で状態をチェックしていました。
ご存知かもしれませんが、スギやヒノキ等が植えられている人工林の森って、「自然のままに」と放置しているとむしろ荒れるんです。ちゃんと間伐して地面まで日光を入れて、森に循環を起こすことで、結果的に豊かに茂り、動物たちも生きていける。間伐材が売れればそれは人間の利益になります。「人と自然、win-winの形じゃないと永続的に森林を育てていけない」というのは林野庁で叩き込まれた価値観です。
非常に意義のある仕事ですし、角田さんの関心ど真ん中であるように感じます。なぜ転職に至ったのか、むしろ謎が深まりました。
「長靴で国有林に分け入って調査して〜」の部分だけ切り出せば、いいんですよ(笑)。現場に行って何かするのは今も昔も大好きです。ただ、実際は書類仕事も多く、また仕事のやり方としても、自分で決めるというより上からの指示を正確にこなすのが基本でした。「もっとこうすればいいのに」と思っても、なかなか変えられない。ジレンマがありました。
もう一つの直接的なきっかけは、コロナ禍です。新型コロナが流行り出した当時、パンク寸前の厚労省に各省庁から臨時で人を出していた時期があり、私も数ヶ月出向していました。当時の厚労省は走りながらシステムを作っているような状況で、現場はもうバタバタ。電話越しに「早くワクチンをよこせ!」と怒鳴られ、受話器を耳から遠ざけた日もあったほど(苦笑)。ただ、混乱を乗り越えてなんとか企業にワクチンを届けられた時の達成感がすごくて。仕事に「手触り感」があったというのでしょうか。目の前の人のために頑張って、感謝されるって嬉しいものだなと素直に思ったんです。この厚労省でのイレギュラーな経験に比較すると、普段の霞が関本省での仕事には、大義はある一方で「自分は」何ができたのかという自己効力感が得られにくい。そこに内心不満や寂しさがあったことに、改めて気づきました。そこから「課題解決の本質性や、利益主義に走らない公共性という今の仕事の良さは維持しつつも、もうちょっと対人的な手応えのある仕事はないものか」と考えたのが、転職活動を始めたきっかけです。
提案から実行まで、
全部やるから面白い
ここまでお聞きして、なぜデベロッパーに転職したか少しわかった気がします。「街をつくる」って公共性が高い仕事ですし、さらには「人」に向き合う仕事でもありますからね。
そうなんです。長い年月をかけて「いい街」の答えを出していくところもいいなと思いました。短期的に答えが出てしまうものより本質に向き合える気がします。
ちなみに公務員から転職する先としては、コンサルが割と一般的です。でもコンサルだと「提案をする」までが仕事で、実際に手を動かすのは別の人になりがち。それはちょっと嫌というか、公務員時代も「仕組みや制度はつくるけれど、それを動かすのは別の人」という点に物足りなさを感じていたので。その点、三井不動産には具体的な事業がいくつもあるから「実態」には事欠かないし、企業姿勢として「現場」を大事にしているところも魅力的でした。
実際に転職してみて、いかがでしたか?
転職直後の2、3ヶ月はもがいていましたね。まず専門用語がわからない。営業未経験だったのもあってお客さんとどうお話しすればいいかもわからない。試練の日々だったと思います。
ただ、いい意味のカルチャーショックもあって。それは、完全にトップダウンだった前職と違い、組織風土がすごくフラットだったことです。例えば打ち合わせや各案件の進捗共有会などの場では若手が自由に意見するし、聞いているグループ長クラスの人も「そうだね」なんて普通に受け止めている。超トップダウン組織から来た身としては衝撃的な光景でした(笑)。さらには前任者までの仕事のやり方で効率が悪いところがあれば、どんどん自分でやり方を変えていいし、「お客さんのために必要だ」と思えばすぐ行動して仕事をつくる。最初は戸惑ったものの、すぐに「これだよこれ、私が転職に求めていたものは!」という気持ちが湧いてきて、半年くらいで自分も普通に意見を言うようになっていました。
とはいえ最初は試練の日々だったんですよね。どうやって乗り越えましたか?
会社の皆さんが本当に親切で、質問すればいつも手を止めて丁寧に教えてくれたんです。それに仕事外でのランチや飲み会で人脈をつくる手伝いもしてくださって、そうした支えがあって徐々に馴染んでいけたんだと思います。
現場に深く入ってこそ、本質にたどり着ける
角田さんのワークスタイル推進部での仕事は、一言で言えば「働き方のコンサルティング」ですよね。
そうですね。当社としては比較的新しい事業です。当社はいま産業デベロッパーとして進化しようとしていて、その一環で、オフィスを賃貸するだけでなく人と人との有機的なつながりを生み出すようなソフト面の事業を強化しています。私自身も働く人の視点に立ち、「どうしたらオフィスに入居される方々がイキイキ働けるだろう?」と考えながら、空間の提案やコミュニティづくりの支援など一歩踏み込んだご提案をしています。
特に印象的だった仕事について教えてくれますか?
2年目くらいからようやく自分でコンサルティング契約を取れるようになり、その中の1社でのこと。とにかくお急ぎのお客さんで、通常は3回行う社員向けワークショップを1回にまとめてほしいとご要望でした。
社員向けワークショップというのは、社員の皆さまにセッションをしていただいて、「自分たちの会社はどこを目指していくのか」「どんなあり方が理想なのか」を明確化してもらうものです。その3回分の内容を1回にまとめるというのは、不可能ではないとはいえ、議論そのものが熟さないリスクがあります。それに結論を急ぐあまり、皆さんが心から納得できない着地をしても意味がありません。細心の注意を払ってファシリテーションしなくてはと、その一日に全力投球をする想いで臨みました。
コンサルティングを依頼された背景として、その会社の「働き方」の課題はどういったものだったのでしょうか?
いろいろありますが、一つは社内のコミュニケーションの課題がありましたね。総務の方も、「もっと社員同士で和気藹々と会話してほしい」とおっしゃっていました。ただ、いざワークショップで丁寧に社員一人一人のお話を聞いていくと、「会話しない理由」もそれぞれにあるんです。例えば「自分の業務に集中したい」「顔も名前も知らないのに話しかけられない」。確かになぁ、と共感しましたし、そうした生の声をひとつ聞くごとに問題の解像度が上がっていく感覚がありました。やっぱり仕事って、窓口になってくれる人の話を聞いているだけじゃわからないんですよね。現場の人の話を聞かないことには課題の本質につながらない。
「会話してほしい」は管理者側の希望、「会話する意味を感じない」が現場の本音。間に立って、角田さんはどうしていったんですか?
「じゃ、会話しないのも仕方ないですね」で終わったら意味がありませんので、相手の言葉をスタートに深掘りをしていきました。例えば「忙しいから会話なんてする暇がない」とおっしゃる社員さんには「では、仮に忙しくなかったとしたら隣の人と話したと思いますか?」と投げかけてみる。「忙しい」の裏にあるものを引き出していくんです。そうやって言葉の行間を読みながら問いを重ねると、徐々に「自分たちが本当は何を望み、どうありたいか」が見えてきます。
最終的に、その日の議論は大いに盛り上がり、大変納得のいく結論に至ることができました。後日いただいたアンケートにも、「出席してよかったです」「目の前の業務だけじゃなく、広い視野を持って会社として何が必要なのか考えるようになりました」「自分から積極的にコミュニケーションをとるようになりました」という嬉しいお声がたくさん。あぁ、本当にあの場の皆さまに貢献できたんだと、胸が熱くなりました。総務の方からも大変感謝していただけました。
相手の立場に立ったり、行間を読んだり。サラっとおっしゃっていましたが、簡単なことではないのでは?
うーん、自分で言うのもなんですが、「言葉から推察する」のは元々得意だったかもしれません。子どもの頃から大量に本を読んできたので。
もう一つ、私だけでなく三井不動産として「相手の立場に立つ」を常に大事にしているのも大きいと思います。今の上司にも「お客さんと向き合う時は、本当にその会社の社員になりきって、自分が働くことを想像しながら提案しなさい」と言われます。コンサルティングメニューについてもフルセットで売ることを目指すのではなく、本当に相手の必要とするものを考え抜いて提案しよう、と。そういう職場環境を用意してもらえているからこそ、私も安心して本質に向き合えているのだと思います。
現実が変化するのを、
自分の目で確かめたい
働き方のコンサルティングを行ったお客さんとの仕事はその後も続くものなのでしょうか?
はい。例えば私がコンサルティングを実施した後に、働き方をより企業の目的に合ったものに変えるために、オフィスを移転されることになったお客様がいらっしゃいました。そのお客様は、移転のパートナーをコンペで改めて選定されることとなったのですが、そこでも当社を選んでいただきました。選定理由としては、「自社の課題を最もよくわかってくれて、寄り添ってくれるから」「ちょっとした質問への回答が速くて親身だから」と聞いています。確かに、コンペまでの間もちょこちょことお電話でいろんなお問い合わせを受けては回答していたんです。この、ちょっとしたことで頼ってもらえる事実が「信頼されているんだな」という実感につながっていて、私も嬉しい。今は移転後のレイアウトなどを一緒に考えています。
提案から実際のオフィスを変えていくフェーズまで伴走できるのはいいですね。
本当に。実行してみないと自分の提案が本当に的を射ていたのかもわからないので、いよいよ確かめにいくんだ、という気持ちです。
最後に、今後もっと挑戦したいことってありますか?
「絶対にこれがしたい!」というほどのこだわりはありません。でもせっかくライフサイエンスから宇宙まで幅広い事業があるのだから、他のアセットもやってみたいですね。ただ、何をしていても私の軸は「現場」にあるように思っています。例えば街をつくるなら、最初から「街」というマクロなものを考えるよりは、住む人一人ひとりの要望や気持ちを聞いて、その積み重ねで多くの人が住みやすい街を実現していくんでしょうし、商業の分野に行くなら「なぜこの施設は流行らないんだろう?何があれば賑わうんだろう?」というようなことを利用者の気持ちになってひたすら考え続けるんでしょう。現場に行くこと、イメージすること、相手の気持ちに寄り添うこと。そして何より「言うだけ」じゃなくて「やる」まで責任を持つこと。どんな仕事をしていても、大事にし続けたいと思っています。